聖と俗の間の混沌を描く答えがでない重苦しい映画

映画「聖なる犯罪者」(2019年)

■製作年:2019年
■監督:ヤン・コマサ
■出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、他

ポーランドの映画である「聖なる犯罪者」はヘビーな作品です。このような人間の心理の闇をつき重層的な作品は思考のトリガーとなる多様性を持ったものと言える。さしずめ小説のようなアート系の問題作と言えます。

主人公の青年ダニエルは殺人事件を犯し少年院に。そこで出会った神父の影響を受け熱心なキリスト教徒になり、出所後は神学校に行きたいと願うが、前科があると聖職者になれないことを知ります。仮出所後、製材所に就職することになるも、立ち寄った近くの教会で、偶然で会った少女に司祭だと嘘をつく。

そこからの展開がダニエルの想像を超えるものとなり、それがこの映画の核となっていきます。体の調子が悪い司祭から、ダニエルは新任の司祭と間違われそのまま小さな街の司祭代行となってしまう。ちゃんと学ばないまま、スマホで情報をとりながら彼はミサを行い懺悔室に入る。ベースとなる知識は少年院で神父から教えられたことのみ。なので彼流のやりかたでそれらを行うが、それが形式ばったものから本音のようなものを垣間見ることができ、逆に住民たちの信仰を深めていく結果となる。

しかし住民たちにおいて、隠したい不幸な事件がありそれが分断を起こしている。そこには信仰とは別の憎しみの意識が渦巻いていて、ダニエルはそこの関係性の中に入っていくことにより、ある意味での和解、赦しを生み出すことになる。

そうした中で、少年院のかつての仲間がやってきて、ダニエルの立場を脅かすようになっていく・・・。そして判断を観客の手にゆだねられる、言葉では表現が難しいある結果が・・・。映画を最後まで見るとなんとも言えず重苦しい気持ちにさせられる。

和とはなにか?信仰とはなにか?正義とはなにか?悪とはなにか?人は流れに逆らえず渦に巻きこまれていく。村人たちにとってはトリックスターのように現れた存在となったダニエル。その彼自身の運命とは?答えを出そうにもだせない空気がそこに流れているのでした。寓意的なあまりに寓意的な秀作でした。

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