世紀末に異色の華を咲かせた天才を題材にした小説
『サロメ』(原田マハ)を読む
書店で本を物色していたら平積みになっていた一冊の文庫本の表紙が目に入ってきました。有名なオーブリー・ビアズリーの絵が表紙の原田マハさんの小説「サロメ」です。私は10年ほど前、ビアズリーの有名な絵に惹かれサロメについて関心を持っていた時期がありました。
オスカー・ワイルドによる戯曲、リャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」、ギュスターヴ・モローによるサロメの絵、ユイスマンスの小説「さかしま」 他には「サロメ」を題材にした漫画や映画も見たりしました。 芸術家は、なぜサロメに惹かれ作品を作るのだろうか?
サロメが要望したヨカナーンの首は、キリストに洗礼を施したヨハネのこと。上記のようにサロメに関するいろいろな本やお芝居、映画、オペラを見、漫画などもあり読んだのですが、サロメがヨカナーンを求めた動機が私には最終的にはしっくりこないというのが本音。しかし、なにかそこにはあるのです。芸術家が求めてやまない聖と俗、生と性と死、血とエロスの秘密が、それは聖なるものを巡る感性と言っていいのかもしれません。
むしろイスラエルに行き、ヨルダン川でキリストがヨハネから洗礼を受けた場所に行き、確かにヨカナーン(ヨハネ)はいたんだろうということ。そしてそのヨハネは一人の少女の要望により命を絶ったということ。聖書ではサロメと言う名前は出てこない。
今回、表紙に惹きつけられて原田マハさんの「サロメ」を読みましたが、オスカー・ワイルド、オーブリー・ビアズリー、そして姉のメイビル・ビアズリーという実在の人物をもとにした創作小説を読み、まずは、サロメというより、その戯曲の挿絵を描いて一躍美術史に名を残すことになるビアズリーという天才がいたんだということを強く感じたのでした。
読み進めるにあたり、ビアズリーの画集がだんだん欲しくなってくるのは、作者の筆のうまさであると思います。読みやすい文体とイメージしやすい達筆さ。初めて読んだ原田さんの小説ですが面白かったです。
サロメというファム・ファタールの代名詞のような素材を得て、スキャンダラスな人生を送ったオスカー・ワイルド、天才ビアズリーとその姉の情念が、どう絡んでいくのか?ミイラ取りがミイラになったではないが、2人の異能な才能を持った間で揺れる女性、その彼女がどんどん変化していくところに魔性を感じずにはいられませんでした。
サロメ (文春文庫) サロメ (岩波文庫)