人とウィルスは、共存関係にあり進化も促したということがよくわかる本
「感染症の世界史」石弘之(角川文庫)を読む
カミュの「ペスト」を書店で購入した時に、横に平積みされていたのが「感染症の世界史」という本。私はこれまで、インフルエンザが流行ったりしたときに、感染症ということについては、必要以上には関心を払ってきませんでした。せいぜいがニュースや新聞で目にすることに注意するくらいでした。しかし、今回の日本全体が大きく巻き込まれた新型コロナウィルスがきっかけで、半ば暴力的にと言ってもいいよな感じで、感染ということに注意が向けられることになったように思います。
この本はかなり詳しく様々なウィルスや細菌による感染の歴史がわかりやすく書かれています。内容としてはかなりの量があるため、読んでいってはその後から、本に書かれている情報が頭から落ちていっている私なのではありますが(笑)
そんな私なのですが、いくつか備忘録を残したくような興味深いことも多々ありました。
●毒蛇やサメ、熊などを押しのけて最も人を殺す野生動物は「蚊」であり、10大危険動物のトップの座にあるということ。
●レトロウィルスは、自分の遺伝子を別の生物の遺伝子に組み込むことにより、生物の進化の原動力にもなってきた。人の遺伝情報(ゲノム)がすべて解読されてから、たんぱく質をつくる機能のある遺伝子はわずか1.5%しかなく、全体の約半分はウィルスに由来しているという。生物は感染したウィルスの遺伝子を取組むことで、突然変異を起こして遺伝情報を多様にし、進化を促してきたと考えられる。人も含めてどんな生物にもウィルスに由来する遺伝子が入り込んでいるそうだ。
●胎児の遺伝形質の半分は父親に由来する。母親の免疫系にとっては異質な存在であり、通常なら胎児は母胎の免疫反応により生きてい行けないことになるが、ウィルスが哺乳動物の胎児を守っているということ。つまりウィルスは生命の本質部分をにぎっているということになる。
●日露戦争で戦死した約半数は戦病死、チフスなどの消化器感染症も多く、その予防として陸軍が開発したのが「クレオソート丸」。露(ロシア)を征する丸(薬)の意味で「征露丸」とと名付けられ、それが「正露丸」と名前を変えて売られている。だからラッパのマークなのか。
●ペストがかつて流行したとき、原因がわからないままに「ユダヤ人が井戸に毒を入れた」という噂が広まり、ユダヤ人排斥が激しくなったという。これは日本でも関東大震災のときに同じようなデマが流れたことと同じだ。そして魔女狩りも盛んに行われたという。
●そのペストが流行ったときに、ケンブリッジ大学が閉鎖され、ニュートンは故郷に戻り、万有引力の研究に没頭した。この避難の一年間にニュートンの業績は集中し「ニュートンの驚異の年」と呼ばれている。
●日常的に人体には外部環境にさらされる場所には常在菌が住んでいる。その常在菌の総重量は1300グラムになるといい、脳なみの重さがあるという。
●人体のへそ。へそのゴマは細菌にとって絶好の生息場所。極致の氷床や深海部の熱水噴出孔などにすむ「極限環境微生物」が見つかった。なんと人間のへそのすごいこと!
●成人T細胞白血病で27歳の若さで死去した女優の夏目雅子さん。このウィルスは縄文人が持ち込んだもの。そして弥生人が持ち込んだのが結核。
その他、知らないことだらけで、このコロナがきっかけでウィルスという存在を、今一度見つめるきっかけをもらったのですが、この本の著者である石弘之氏のインタビューが書籍の出版社のWEBで公開されており、ウィルスとの共存ということを考えさせられる言葉があったので引用をいたします。
『ヒトと微生物の戦いは未来永劫つづくものだということは、『感染症の世界史』をお読みいただければ、その理由がわかると思います。私たちは、過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った「幸運な先祖」をもつ子孫であり、その上、上下水道の整備、医学の発達、医療施設や制度の普及、栄養の向上など、さまざまな対抗手段によって感染症と戦ってきました。それでも感染症がなくなることはありません。私たちが忘れていたのは、ウイルスも 40 億年前からずっと途切れずにつづいてきた「幸運な先祖」の子孫ということです。しぶとく生き残ってきたヤツらなのです。』(※KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」から引用 https://kadobun.jp/feature/interview/9yhcdzonav40.html )
感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)