カミュの小説「ペスト」により実存主義の扉が開く

アルベール・カミュ「ペスト」を読む

ノーベル文学賞も受賞しているアルベール・カミュの小説「ペスト」を読んでいます。今、日本、世界ではコロナ・ウィルスが席巻しており、この文章を書いている時点では「非常事態宣言」が出て自粛という期間、それが延長されるという発表もあるタイミングです。世界的な文学者カミュが、この人々を悩ます疫病をどう描いたのか?

不条理作家として有名なカミュのこの「ペスト」は、第二次世界大戦後のフランスで書かれたそうです。戦争という不条理な状態、ナチスの支配下に置かれたフランス、カミュはレジスタンスに加わりその経験も色濃く反映されているようです。

小説の舞台はアルジェリアのオラン、そこにペストが発生し、非常事態宣言が発令され、都市が封鎖され隔離されます。そうした部分はこのコロナ騒動と似ています。封鎖されることにとり安定した日常から追放され、人生の「問い」に否応なく直面することになります。自分の人生への疑念を突き付けてくるのがペストなのであると。

NHKのEテレの「100分de名著」という、4週に渡り1冊の名著を読み解いていくというユニークな番組があり、以前、このカミュの「ペスト」を取り上げていました。その時は、このコロナの騒ぎはあるはずもなく、ペストという疫病のもつ脅威と恐怖の心理について、3.11の原発事故や、あるいは、クラスの中のいじめの連鎖、SNSにおける発言の炎上などを例に出して話していました。

その番組が非常にわかりやすく、本を読むうえでのガイドになっているのですが、カミュが小説で問いかける問題は、まさしく今の私たちの状況に直結してくるように思えてきます。それぞれの立場、それぞれの価値観の相違が浮き上がり、人の有様が浮かび上がります。それをカミュは是非の判断をすることなく描いていきます。

「誰でも自分のうちにペストを持っている」

このペストは人間の心の奥の奥にある闇の部分の象徴にも感じるのですが、この不条理性を追求するにあたり、人間という存在を深く考えていかねばならなくなり、やがて、出口が見えてこないような鬱蒼とした気分にもなってきます。

だからこそ、自分自身の心の闇の部分にもしっかりと向き合い、自分はどう生きていくのか?どうあろうとするのか?シーンと静まりかえった東京の街でそんなことを思うのでした・・・。

ペスト (新潮文庫)

アルベール・カミュ『ペスト』 2018年6月 (100分 de 名著)

Follow me!