現代最高の知性が語るパンディミック後の社会
先日(2020年4月25日)、NHKでユヴァル・ノア・ハラリ氏にパンデミック後の社会はどうなっていくのか?という60分のインタビュー番組が放送されていました。それを見ていて大切なことを発言しているなと思ったのです。
ハラリ氏といえばイスラエルの歴史学者で、「サピエンス全史」「ホモ・デウス」といった著作が世界的に話題になり、今なお書店では著書が山積みになっている現代のトップ知性の一人です。私も「ホモ・デウス」を読んで大きな刺激と示唆を受けた一人です。
ということで、インタビューではとても示唆的な発言をされていたので、今回はそれについて書いてみたいと思います。
ハラリ氏は、新型コロナ・ウィルスによるパンディミックを経験した私たちは、今とは異なる社会に住むことになるだろうと発言しています。この数か月間に渡り、世界は巨大な社会的、政治的な実験をしていくことになるだろうと。この5月1日時点においても9月始業という論議が出ていたり、会議そのもののオンラインとなったり、世界レベルで見ていくと情報技術の導入がさらに進み、AIやロボットに任せていくこと、バイオテクノロジーの活用がさらに加速していくことになるのでは?と想像に難くありません。
その中で注意しなければいけないことは、アフリカ、東南アジア、南米におけるパンディミックに対してクローバルに対処していく計画が必要であること、さらに、ウィルスの感染力、致死率が高まるという突然変異にも気をつけなければならない。そして、ウィルスの流行だけに関心を払うでなく政治的な状況にも注目をしなければいけないとも。
なぜなら、危機に瀕している状況下、政治は経済、教育システム、国際関係のルールを根本的に書き換えるチャンスを握っている。思うにパンディミックによる危機は、世界の変革を加速化させているように見えます。経済をストップさせるような、このような自粛は今まで考えられなかった状況ですし、国民に一律給付金を払うなんてことは、私の人生においてはじめての経験です。そうした中でより保守的、右傾化へとシフトする可能性も否めません。
こうした不安がはびこる中、パンディミックを抑えるには、感染者との接触を起こさないという点において、感染者がどこにいるかという効率的な監視システムが有効であること。その為には現代のインフォメーション・テクノロジーは人々の行動を細かくチェックできるようにな社会になっている。その際、国民はより早くパンディミックを終焉させるために、そうした個人監視システムに対し許容しやすい傾向にあること、逆にそれが導入されたなら、それを抑止していく力は難しいと。
その監視システムの在り方が変化し、個人の体温や血圧など健康情報にも入り込もうとしたら・・・。もしパンディミック抑止のためのに私たちの生体情報を収集する監視システムが構築され、それが権力側(治安機関、秘密警察など)に運用されるようになったとしたら?ハラリ氏は、絶対にそうした事態は避けなくてはならないとしています。それはハラリ氏がイスラエルという、パレスチナ問題をはらんでいる特別な地に住んでいるゆえに敏感に感じ取ることができる重い発言なのだと思います。
彼のたとえ話で「緊急時のプディング」というのがあります。プディングとはイスラエル人も好むお菓子で、パレスチナと中東戦争が起こった時、イスラエルでは贅沢品として制限する法令ができたそうです。しかし、それが廃止されたのは2011年とつい最近こと。それは危機的状況が終焉しても、長らく制限する法律が残ったことということ。つまり。権力側に都合のいい監視されるシステムがいったん整備されてしまう制度ができると、それは簡単に終わらせることがなかなかできず、そのまま残っていく可能性が高いというわかりやすい事例を紹介しているのです。
もし権力による、監視システムが強化され個人の生体情報までが収集されるようになったとしたら・・・。そうした危険性はハラリ氏の「ホモ・デウス」でも予言的に言及されていました。この本では、バイオテクノロジーの進化によりすべての生体生命情報はデータ化され、コンピュータのアルゴリズム(AI)こそがすべてとなり、人類は大きな変化を迎えることになるだろうと警告を発していました。まるでSF映画のような未来への展開なのですが、今回の世界的なパンディミックは、少なくともこれまでとは違う劇的な変化を容易に加速させるきっかけにもなりえるという危険性をはらんでいると言えそうです。働き方改革、オンライン会議といった導入が難しいとなかなか進まなかった事態が、こうなるといとも簡単に普及するというのは象徴的に表しているようにも思えます。
ハラリ氏は監視システムに対して、市民に力をあたえるエンパワーメントが必要だとしています。市民が適切に監視できるシステムを構築すること、データは透明であり、双方向であること。それは力の傾きが一方に偏らない仕組みが必要だということです。一度、権力側に管理しやすいシステムが構築されてしまうとそれを捨てていくことは難しい、そうなると圧力が一方向になるため、とても危険故に、第三者的で市民の側に立った力も同時に必要であるということ。
パンディミックという世界的な未曽有の状況下で、最も必要なことは「協力と情報共有」であるとハラリ氏は言います。ウィルスに対する世界的な情報共有とグローバルな支援と協力体制。そうしたことができるのが人間に与えられた強みであると。ホモ・サピエンスがここまで発達しえたのはコミュニケーションする力を持ち、同じ想いを共有し文明を築いてきた、その強みがあたえられているので、その強みがマイナスの方向に向かわないようにしないといけません。今、各国は封鎖状態となり、分断化が進み、それがエスカレートする責任問題や責任転嫁が起こり、場合によっては、憎しみあいにまで進んでいく可能性があります。嫌な空気を感じます。
ともすれば疑心暗鬼となりつつある世界ですが、恐怖、孤立、独裁へと向かうベクトルを避け、今こそ協力と情報共有が必要な局面にきている、私たちの内側に潜んでいる悪魔に打ち勝つことが、次のより良き時代へとつなげていくことになるとハラリ氏は強調していました。今、世界的な規模で大変な思いを今後していくことになであろうが、人類史的な大きなスパンで見た時に、あの時にこう対処したから今の真に豊かな社会があると思えるような行動をとっていかねばならないと。
様々な意見が出て、多面的な見方が出てきて、内省する時間も多い、このような状況下であるからこそ、ハラリ氏が提示した思考性は、もっともなこと、わかりきったことと思い流すだけではなく、それを忘れずにいることは、来るべき未来において嫌な空気が蔓延る時代を迎えないためにも必要なのではないかと思ったわけです(得てして人は、自分自身をはじめ基本的なことを忘れてしまう生き物と思うから)。
サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福 ホモ・デウス(2巻セット)