魔女裁判と集団ヒステリー「肉体と悪魔」

映画「肉体の悪魔」(1971年)

■監督:ケン・ラッセル
■出演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ、オリヴァー・リード、他

ケン・ラッセル監督の映画「肉体の悪魔」は、幻の作品として名は知れどもなかなか観ることができない作品だった。それがなんとDVD化されていて伝説の映画を観ることができたのだ。

「肉体の悪魔」は、1632年にフランスのルーダンで起きた悪魔憑き事件を描いています。当地の司祭グランディエは美貌の持ち主で良家の子女を片っ端から手を付け反感を買っていた。ユルスリーヌ女子修道院院長のジャンヌ・デ・サンジュから求愛されたときに拒絶。以後ジャンヌ院長はグランディエを恨み、後日、院長と17人の修道女が集団ヒステリーに陥り、悪魔祓いが行われたとき、彼女らは口々に自分たちは悪魔に取り憑かれており、グランディエがその悪魔だと証言した。かくして拷問でグランディエは悪魔であると自白し、6000人もの観衆が見守るなかで火あぶりにされた。(参考:「呪術の世界史」島崎晋・著/ワニブックス刊)

ちなみに、もし、憧れる異性の相手を悪魔と見立ててしまい、グランディエがその悪魔にされたとしたら、これは悲惨そののものだ。

映画では、オリヴァー・リードが演じる司祭グランディエは、傲慢かつ女性好きながらも町の自治を守ろうとした人物。一方、グランディエに想いを密かに寄せる修道院長ジャンヌは、抑圧された欲望と信仰の狭間で、性的抑圧と宗教的ヒステリーが結びついた存在として描かれる。

公開当時から、この映画は猛烈な批判と規制の対象になったという。それは、修道女たちの集団ヒステリー、聖職者の性的逸脱、そして「レイプ・オブ・クライスト」と呼ばれる修道女たちが、聖像を性的に冒涜する乱痴気騒ぎの場面がある。どこまで事実なのかわからないけども、これは見ていてヤバイでしょ、という感じです。映画公開の1970年初頭ということを考えれば、ラッセルが描いた表現は、宗教的な感情を刺激する以上のスキャンダルな表現といえる。ケン・ラッセルはそうしたことを意図したのかもしれないが、修道女の大胆不敵な性的逸脱の表現は、やっぱりどうなのかなという気もする。他に表現の仕方があったかも、とも思う。

グランディエは不完全な人間でありながら、最後にはルーダンの自治を守ろうとする殉教者のように描かれる。映画を観る限り、彼を破滅に追い込んだのは悪魔ではなく、権力闘争に歪んだ聖職者の意識と信仰を利用した政治権力だった。魔女裁判、異端審問、そこにからむ政治権力の裏には不条理な人間のドロドロとした欲望が蠢いている。ケン・ラッセルは過激な表現で、それをあからさまにしようとしたのかもしれない。ちなみに美術にはあのデレク・ジャーマンが参加している。

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