映像見て口の中まで、がさつく傑作。映画「砂の女」

映画「砂の女」(1964年)

■製作年:1964年
■監督:勅使河原宏
■出演:岡田英次、岸田今日子、他

安部公房の生誕100年ということで渋谷のシネマヴェーラで安部公房の映画特集を上映していたので、その評価も高い「砂の女」を観てきました。この映画は主に2人の登場人物だけで、真の主人公のように存在感を見せるのが、どこまでも立ち塞がる〈砂〉です。よくぞここまで砂を撮ったなと思わさせる砂の脅威。砂、砂、砂。映画を見ていて、私の口の中は、心なしかざらついた感じがしてくるのでした。

この感覚は小説よりもずっと伝わる。つかみどころのない砂。そして岸田今日子演じる、すり鉢状の砂の穴の中で、砂書きを日課として生活している謎の女。

実はこの映画、20代の頃、観た記憶がある。まるで蟻地獄のように捉えられた男の話を観て、なんじゃコリャという印象を持った記憶がある。40年の時を経て、再び観た「砂の女」。単調な展開にも関わらす、過去の印象を覆し、面白いと思った。傑作だと。これぞ映像の持つ力と感じた。

実は小説の「砂の女」を読んでいた時は、なぜか呪縛されたように本のページをめくる度に不思議と睡魔に襲われた。なので、読むのにも時間がかかった。だから、映画を観る前に少し構えてしまったのですが、そんな予測を裏切るかのように、砂の渦の中に消えていく男の話を、ある種の切迫感を持って鑑賞ができたのでした。

言葉を越えていく映像の力は、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど海外でも評価が高いのは頷ける。特にフランスでは、サルトルといった実存主義の影響もあり、圧倒的な砂の映像が、存在の不条理、孤独、自由の喪失といったテーマを訴えるにはわかりやすく、彼らにとってエキゾチックにうつり、共感を得たのだろうな、と。

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