鬼気迫る演技に魅了、聖女か?兵士か?「ジャンヌ・ダルク」

映画「ジャンヌ・ダルク」(1999年)
■製作年:1999年
■監督:リュック・ベッソン
■出演:ミラ・ジョボヴィッチ、ジョン・マルコヴィッチ。フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン、他
映画「ジャンヌ・ダルク」を、いまの年齢と感受性で見直すと、かつて観たときに抱いた過剰という印象が、過剰は過剰なんだけど、まったく別の意味を帯びて立ち上がってきた。若い頃には騒がしく、感情を煽りすぎる作品に見えたものが、いまはむしろ、信仰と狂気の境界を真正面から抉り出そうとする、危ういほど誠実な試みとして迫ってくるのだ。監督はリュック・ベンソン、十五世紀フランスという暗黒の中世に踏み込み、神の声を聞いた少女の物語を描く。そこに漂うのはよく知られた英雄譚というより、むしろ、信じるとはどういうことかという問いである。
ジャンヌ・ダルクを演じたのは、ミラ・ジョヴォヴィッチ。彼女のジャンヌは、聖女というより、ほとんど燃焼体、炎の女なのである。神の啓示を受けたと語るときの瞳、戦場で兵を鼓舞するときの異様な高揚、自ら傷ついても怯むことなく向かう姿勢。 ジャンヌ・ダルク はフランスに奇跡をもたらした女性なのだ。そして異端審問で追い詰められていく時も、聖職者を圧倒する揺るぎのない姿勢。この揺ぎなさは一体なんなんだ。映画を観た観客は、きっと心の中で疑問がでてくるだろう。本当に彼女は神の啓示を受けたのか?映画を観ているとある意味、狂気の世界でもあるからだ。。
百年戦争下、フランスが疲弊し、国土の多くがイングランドに制圧されていた歴史的状況。フランスは絶望感に覆われている。そこへ現れる十代の少女。彼女は自らを神の使いと名乗り、王太子を説き伏せ、兵を動かす。十代の少女だよ。彼女がフランス軍を動かすなんて!女の子が何してんの?妄想し虚言してるの?というバカにしているフランスの兵士をことごとく、ひっくり返すあり得ないような現象を起こし、結果、オレルアンの戦いで奇跡の解放をたらしてしまう。 ジャンヌは旗を掲げ、ほとんど恍惚状態で前線に立つ。その姿は英雄というより、トランス状態に入ったようでもある。彼女のパワーの源泉が、神なのか、それとも強烈な自己暗示なのかをやっぱり考えてしまう。
異端審問の場面も核心的部分でもある。あくまで神の声を聞いたと主張するジャンヌと、制度としてできあがっている教会。ジャンヌの姿勢は、 聖職者らを圧倒する。どちらも「神」を語りながら、まったく異なる立場に立っている。ここまで貫く姿勢のジャンヌとは?確かに強烈な体験をしたのだろう。だが、その声は本当に超越的存在のものなのか?あるいは、極限状況下で形成された内的ビジョンなのか?
やがて火刑となるまでのジャンヌが描かれる。彼女が見たのは果たして神なのか?あるいは幻覚なのか?フランス軍でさえ成し遂げられなかった奇跡を、わずか十代の女性が成し遂げたジャンヌとは、一体どんな人物なのか?信仰とビジョン、精神が正常なのか?異常なのか? トランス状態とは?そして異端とは?イングランド軍はジャンヌを魔女と呼んでいた。 ジャンヌ・ダルクという存在は、接する側の立場でその見方も大きく変わる特異な存在と言っていい。
歴史的正確性については、映画を面白くするために多少歪んでいるようだ。姉の死の描写など、史実と異なる部分は少なくないという。しかしそれは、歴史再現を目的とした作品というより、ジャンヌという歴史の中で過剰に表れてきた現象を描こうとするアプローチの結果だろう。事実の細部よりも、ジャンヌ・ダルクという存在が象徴しているもの――国家、信仰、女性、異端、カリスマ――を浮かび上がらせることの方が優先されている。彼女は歴史上の人物であると同時に、永遠の象徴でもあるのだ。救済者であり、犠牲者であり、狂信者であり、革命家でもある。彼女は、見る者の立場によって、姿を変えてしまうのだ。
フランスというカトリック文化圏において、ルルドの泉のベルナデッタや奇跡のメダイ教会のカトリーヌなど啓示を受け奇跡を起こし聖女の列に参列する女性が多い気もする。 啓示を受けた女性聖人が語り継がれてきた背景を見ても、ジャンヌは別格でだろう。彼女は啓示を受けたように、祈りの人であったと同時に、フランス軍を率いた戦場の兵士でもあった。信仰が内面に閉じるのではなく、歴史を動かす力となった全く稀有な例なのだ。見終えた後、jジャンヌ・ダルクについてそれほどの知識もない私は、図書館に足を運びたくなった。映画は結論を与えないから。むしろ問いを増幅させる。ジャンヌとは何者だったのか、を知りたくなったから。
この作品は、表現の過剰性ゆえ、好き嫌いが、たぶん分かれるだろう。だが、強く心を揺さぶる映画であることは疑いない。ベンソンが描いたのは、聖女の伝記ではなく、信じることとは?それによって不可能といわれたことを可能にしてしまった過剰なエネルギーそのものだ。燃え続ける女性を演じたミラ・ジョヴォヴィッチの鬼気迫る演技は、圧倒されるし、すごいなとほんとに思った。 お気に入りの一本に加えたいなと思った。


