SF小説の金字塔『デューン 砂の惑星』雑感

『デューン 砂の惑星』は、フランク・ハーバートによるSF小説。文庫本の解説を書いている水鏡子氏によると、アメリカのSF情報誌「ローカス」誌が主催するファンや読者による投票で選ばれるローカス賞、12年ごとに選ばれる「オールタイム・ベスト」において、1975、1987、1998、2012年と連続して首位の地位を保っている。つまりSF小説において、圧倒的、不動の評価を得ている小説ということになる。

この小説、過去、奇才デヴィット・リンチが「砂の惑星」を映画化、この壮大な物語を短い時間で映画化するには無理があり、尻切れトンボ的となってしまい、評価もイマイチだった。同時期にこれまた奇才のアレハンドロ・ホドロスキーが映画化を試みるも挫折。その経緯が「ホロロフスキーのDUNE」としてドキュメンタリー作品として公開された。それによると、サルバドール・ダリやミック・ジャガー、オーソン・ウェルズ、H・R・ギーガー、ピンク・フロイドら名だたるアーティストと交渉していたことがわかり、もし実現化したらすごい映画になっていただろう。

そして2021年には、ブレードランナーの続編も作ったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「DUNE/デューン 砂の惑星」が製作公開されるや、アカデミー賞に10部門ノミネートされるなど、旋風を巻き起こした。続編『デューン 砂の惑星PART2』も公開され、3作目も作られる勢いだ。特にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「砂の惑星」は、ビジュアル感が他の追随を許さないくらい圧倒的にすごい。

「砂漠の惑星」は、まさに砂漠化した惑星を舞台に、政治、宗教、環境、そして一人の若者の成長を描いているのが話の根幹にある。あれ?と思うのが、それは神話学で有名なジュゼフ・キャンベルの「千の顔を持つ英雄」を連想させる。「千の顔を持つ英雄」は、あの「スターウォーズ」に影響を与えたことで有名な本。この「砂の惑星」においても、そうしたことを感じさせるのだが、ただ、作者のフランク・ハーバートがキャンベルに影響を受けたのか、どうかは、私はわかりません。神話的、宗教的な印象が強く「砂の惑星」が書かれたのは1965年、「千の顔を持つ英雄」は1949年に書かれた事実があるのみです。

巫女的存在ベネ・ゲセリットの存在、そして儀式や密儀、過酷な砂漠環境における水へ信仰、さらには予言も登場し、命の水の秘薬は意識を超越させる働きがあり過去、未来のビジョンを見させる。そして民衆に根付くメシア信仰によりポ主人公のール・アトレイデスは、予言に符合する存在であり、救世主の到来として描かれます。これらの要素が複雑に絡み合い、デューンの物語は宗教的・神話的な意味を持つものとなっている。

さらに「砂の惑星」は中東的、アラブ的な印象も強い。舞台となる砂漠であり、砂漠に住む先住民フレメン族は、どこかアラブの遊牧民であるベドウィンを思い出させる。(イスラエルに行ったときベドウィンのテントで食事をした)もっと言えば、メシアの到来は旧約聖書を想起させるし、フレメン族の戦いジハードを連想する。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「DUNE/デューン 砂の惑星」(1&2)を見ていると、砂漠で生活する彼らの衣装はアラブ的だな思うに十分なイメージを与えてくれる。「砂の惑星」の展開自体がメランジという抗老化作用のある香料を巡る話でもあり、現代の石油を巡るメタファーのようにも思えてくる

おそらくこのような物語の世界観が、冒頭の評価になってくるのだろうが、正直、私は小説を読んでいても世界観の設定を、これはこうなっているんだと理解しながらでないと、長編の物語なので混乱してくるわけです。なので熱狂して読んだということはありませんでした。むしろ、圧倒的な映像世界を作り上げたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「砂の惑星」をより楽しむ手助けとなったのが、正直な感想です。

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