現代ドイツ最高峰のアート、リヒター展を観た
ゲルハルト・リヒター展(東京国立近代美術館)
ドイツの現代アートの巨匠にゲルハルト・リヒターという作家がいます。その大規模な展覧会が、東京国立近代美術館で開催されています(10月2日で終了)。リヒターの名前はちょくちょく聞いたことがありましたが、まとめて作品をみたのは今回が初めてです。
特に印象深かったのは写真の上に絵の具を落とした作品や、写真と思っていたら絵だったという作品、抽象的な作品も多かった。ではなぜ、リヒターがそれほどドイツを代表する作家になったのかというと、『ものを見るとは単に視覚の問題ではなく、芸術の歴史、ホロコーストなどを経験した 20世紀ドイツの歴史、画家自身やその家族の記憶、そして私たちの固定概念や見ることへの欲望などが複雑に絡み合った営みであることを』(展覧会の案内から引用)作品制作の姿勢としての作家性と作品との関係性によるものなのだろう。
確かに抽象画とおもっていた作品の下には、ナチスによるホロコーストの写真(強制収容所の野原でユダヤ人の死体を焼く写真、その写真は、当時、歯みがきのチューブに隠していたという)から写し描いた絵の上に抽象的な絵を描いた「ビルケナウ」という作品がある。なにも知らなければ、その絵のベースにホロコーストの絵があるなどとわからないだろう。ある意味歴史の深層でホロコーストを経験したドイツ的作品とも思える。
そうした作品制作の思想はちゃんと伝わればこそ、その作品はいきてくるんだろうけれど、どんなに思考が研ぎ澄まされて鋭利なものになっていても、まったく知らなければきれいな色で施された抽象画という印象しか持てないだろう。正直、それが現代アートを難しくする点だと久しぶりに、現代という時代に息づくアート作品を見て思いました。