心を揺さぶられるイリュージョン、ザ・プロレス名勝負!
私はプロレスの、正しくは昭和プロレスのファンです。アントニオ猪木、ジャイアント馬塲、ジャンボ鶴田、天龍源一郎、長州力、藤波辰爾・・・といったプロレスラーが活躍した時代のプロレスが好きでした。コロナ禍によりエンターテイメント業界は大打撃を受け、プロレスも例外ではありません。無観客試合を開催しネットで配信など苦境に立たされています。なんとかプロレスの灯を消さぬよう頑張って欲しいと願っています。
そんななかで、現在書店で発売中の雑誌「Number」(1006号)が、ベストバウトをぶっ飛ばせ!とプロレス名勝負秘話を掲載していました。「Number」は読みごたえある雑誌なので購入しました。
その記事の中で表紙を飾っているアントニオ猪木とオカダ・カズチカの対談。新旧のプロレス界のエースの対談です。特にアントニオ猪木は、1976年6月26日にボクシングの世界チャンピオンだったモハメド・アリと対戦、世界中のビッグニュースとなりました。このインパクトは大きかった。当時高校1年生だった私は、昼から試合は始まり生放送で流れるその試合を観たく、学校をさぼって家のテレビにかじりついていました(笑)
その対談のなかで猪木の発言。当たり前といえば当たり前のことなのかもしれませんが、この文章に気持ちが触れました。
『猪木:まあ、いまはなんでも縛り縛りで、一歩ではなく半歩はみ出しただけでルール違反になるような世の中になってしまった。でも、「1ミリの非常識」という言葉をかつて村松友視さんが言ってたけれど、要するに常識というものに縛られていたら、俺たちは何もできない。そこからは何も新しいものは生まれないだろうという考えが、俺の中にあるんでね。行動を起こさなければ何も始まらないのは事実だから。』 「Number」(1006号) (株)文芸春秋から引用
同じく、その雑誌の記事のなかで注目は、平成の大勝負、武藤敬司×高田延彦の試合について。新日本プロレス対UWFインターナショナルのトップ同士の対戦について、これも大きな話題となった試合です。結果的には武藤敬司がドラゴンスクリューから足四の地固めという、プロレスの古典的な技でギブアップを奪い高田延彦を破った試合。裏サイドから見ると、この試合はいろいろあるようですが、観客はリング上のイリュージョンを見ているわけで、どう心を揺さぶらさせてくれるかをその戦いの中で期待をしているわけです。それがまさかの足四の地固め。これはビックリしました。
『勝った武藤はこう語る。「あの日の試合は、6万人以上の大観衆が俺と高田延彦しか見ていないわけだよ。あらゆる動きに歓声があがる。あのエクスタシー。これこそがレスラー冥利に尽きる瞬間だからね。あれを経験しているからこそプロレスをやめられない。俺がいまでもこうして頑張っていられるのは、やっぱりあの高田戦があったからだよな。」』 「Number」(1006号) (株)文芸春秋から引用
そして、1995年阪神・淡路大震災の2日後に大阪府立体育館で開催された小橋建太×川田利明。交通網はマヒし小橋は被災地の親族に連絡が取れないなかでの60分フルタイム闘い、会場からは「ゼンニッポン」コールが鳴り響いたそうです。というのも私はこの試合をテレビでも見ていません。丁度、このタイミングで休暇を取り海外旅行にでかけており、震災の出来事をシンガポールで知りました。実家が関西にあり、それを知った私はホテルから電話したのですが、奇跡的につながり安否を確認できたのです。その後は全くつながらず、家に帰るとものすごい数の留守番電話が入っていました。
私は川田利明と伝説試合をしたという小橋建太が好きです。まじめなひたむきさを感じる試合スタイルに心が打たれます。特に引退前、大怪我やガンからの復帰してリングに上がってくる姿には心を揺さぶられました。そこにはプロレスラーとしてのプライドやスタイルというのを感じることができました。
プロレスラーとは、世間のイメージは強い、大男、屈強、戦う男・・・そうしたイマジネーションを体現しているわけです。ある意味でプロレスラーはイリュージョンの世界を作り上げる役者でもあるのですが、そこには衣装などなく鍛え上げた裸の肉体という、シンプルで隠すことができない厳しさがあります。むき出しの自分というのがリング上でさらされるのです。だから観客は自分の内面、自我をリングの上で展開される闘いに投影しやすく、極上のイリュージョンを与えてくれるレスラーに心酔するのです。
そんなプロレスLOVEもあり、2019年には、その小橋建太とボクシングの元世界チャンピオン竹原慎二の異種格闘技トークショーを企画し開催したことがあります。二人ともガンを経験し克服し活躍しているので、屈強な男でもガンになった時はかなりへこみ泣いたと言います。そこでこの二人がどう立ち上がってきたのか?そんなことを聞きたいと思ったからです。
有名な二人だから、人がたくさん集まったでしょ?と言われるのですが、実は、集客がとても大変でした。なんとか形になるまで持っていくことができホッとしたのですが、トークショーとは言え、忘れられない思い出の一日となったのでした。
プロレスは肉体を酷使しながら夢を提供する極上のエンタテイメント。覆面あり、火炎あり、反則は5カウントまで、だからプロレスは社会の写し鏡。