私をはじめとして、誰でも陥りやすい脳のワナ

『人は、なぜ他人を許せないのか?』中野信子(アスコム)を読む

脳科学者の中野信子氏の『人は、なぜ他人を許せないのか?』は、比較的読みやすい本ですが、世の中の価値観が大きく変化している今という状況を考えると、中身はなかなかヘビーなものを扱っていると思います。

世界がコロナ禍に巻き込まれている最中で、緊急事態宣言が解除されても、コロナの重い空気は簡単には一掃できないでしょう。緊急事態宣言の時には自粛警察なる言葉も出ましたし。

そして、第2波が来る可能性がある、新しい生活様式と言われれば、その中で経済活動がままならない状態になる業種も多々あり、より逼迫した状態になり、人々の考え方はより多様になっていくのだろうかと想像し得ます。

一旦、感染という言葉を耳にタコができるくらいまで、メディアから聞かされ、三密という分かりやすい標語で、人と接するということに注意を払わねばならないということを実行するようになってしまった以上、なかなかこの感染という言葉とそこからくる同調圧力を払拭するのは難しいでしょう。

中野氏は、この本において我こそは正義と確信し、正義の制裁を加えると脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質のドーパミンが放出されると言います。中野氏の言葉によると「正義中毒」に陥っているということ。そしてこれが脳に備わっている仕組みゆえに、誰でもいとも簡単に陥ってしまう性質を持っているのだと。

これは今回のコロナ禍でよりそうした部分を刺激され敏感になり、私自信も含め、大なり小なりそれぞれの立場で、正義中毒に陥っているのではないかと思うのです。

そういえば、つい先日女子プロレスラーが自殺したことが話題になっています。SNSの誹謗中傷だったという話のようです。であれば、匿名性というのもこのような問題にかかわってくると思います。

中野氏の本にも芸能人バッシングについて書かれていましたが、芸能人はキャラクターという商品を演じているのであり、本来は別の性格の人物、なので陥りやすいワナとして一貫性の論理に距離を置くために、そんなことどうでもいいことという感覚が大切と発言していました。

あるいは、現在のコロナ禍が終息し生活や経済活動が今までと同じように戻ったとしても、安心して海外旅行ができるのだろうか?と思ってしまいます。この本にもありましたが、西洋人にとっては日本人も中国人も同じに見えるため、もし犯人捜しのマイナスの感覚により、このコロナの発生源として中国をバッシングしている空気が欧米に残っているとしたら、間違えられて差別的扱いを受ける可能性も絶対にないとは得いません。

そうなると楽しいはずの旅行が嫌な気分へとなってしまいます。実際私も海外でチャイニーズ?と声をかけられたことが何度かあります。そんなことを考えてしまい、もっと世界をみたいという気持ちにブレーキがかかっています。

中野氏は「なぜ、許せないのか?」を客観的に考える脳を育んでいくことが大切としています。脳の成人年齢は30歳、しかし、脳は経験で進化することができる。脳は加齢により、許せなくなってくる傾向にあるので老けない脳をつくること。そこで老けない脳を作るトレーニングも必要だと、以下のようなことをあげています。

(1)慣れていることをやめて新しい体験をする
(2)不安定・過酷な環境に身を置く
(3)安易なカテゴライズ、レッテル貼りに逃げない

また食事や生活習慣も重要で

(1)食事・・・脳の健康にはオメガ3脂肪酸
(2)睡眠・・・睡眠不足を避け、スキマ時間に昼寝する

最後に、正義中毒を乗り越えるカギのひとつとして、「メタ認知」をあげています。常に自分を客観的に見ること、それにはマインドフルネスも有効であると。マインドフルネスは自分の思考や行動を認識し直す、観察するのでメタ認知につながるというのです。なるほど、私もそうしたことを生活の中に徐々に取り入れていこうと思います 。

人は、なぜ他人を許せないのか?

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