「勝手にしやがれ」時代を超えて心に残る、気分と空気感

映画「勝手にしやがれ」(1959年)

■監督:ジャン=リュック・ゴダール
■出演:ジャンポール・ベルモント、ジーン・セバーグ、他

「勝手にしやがれ」を観た。

1960年公開の映画だから、私はまだ生まれてもおらず、だからリアルタイムで観ているわけではない。しかしこの映画は、ヌーヴェルヴァーグの代表作で、のちに神格化させされるゴダールの出発点となった映画史に残る作品でもある。

だから、数十年前、私がまだ若いとき、どんな作品なのかなと、かなり期待して観た記憶がある。その時の印象は「えっ?」という、なんかすかされたものが残っている。今回、「勝手にしやがれ」の製作を描いた「ヌーヴェルヴァーグ」という映画が公開されたこともあり、再び「勝手にしやがれ」を見てみた。

今の若い人が見たら、この映画をみたら、どんな印象をうけるんだろうと思う。

物語は複雑ではない。主人公ミシェルは車を盗み、警官を殺し、パリを逃げ回る。その一方で、アメリカ人女性パトリシアとの関係が描かれる。しかし、そこにはハラハラドキドキする感じはない。事件が次々に起こるわけでもないし、二人の恋愛関係が大きく盛り上がるわけでもない。それなのに、観終わったあと、妙に残るのも感じた。ストーリーではなく、場面の断片や、二人の会話や、パリの街の空気が頭の中に残っている。これは不思議な映画だとも思った。もしかしたらこれが有名な「ジャンプカット」の効果なのかな?とも思った。

ミシェルとパトリシアのやり取り。二人が部屋で話している場面には、他の恋愛映画とは違う独特の空気がある。ミシェルはパトリシアに「寝ようよ」と、たえず持ち掛けさりげなくお尻も触っている。この場面が、逆にリアルに感じる。

情熱的な愛の告白も、ロマンチックな演出もあるわけでもない。ミシェルはぶっきらぼうで、「ねえ、エッチしようよ」という感じなのだ。二人はただ話している。そして、その会話の中に、男女が一緒にいるときの微妙な距離感が浮かび上がってくる。

好きなのか、好きではないのか。一緒にいたいのか、離れたいのか。そのどちらともはっきりしない。この「はっきりしなさ」が、妙にリアルに感じる。好きだから一緒にいるのか。寂しいから一緒にいるのか。暇だから一緒にいるのか。体を求めているだけなのか。本人たちにもよく分からないことがある。『勝手にしやがれ』には、その曖昧さを描いていると感じる。

個人的にはジーン・セバーグがいい。今観ても、セシルカットが本当に瑞々しく、かわいく、素敵なのだ。短い髪、ボーダーシャツ、自然な表情。彼女がパリの街を歩いているだけで絵になる。「昔の映画に出ている昔の女優」という感じがしない、彼女が画面に出てくると、キラキラしているのだ。

一方の、ジャンポール・ベルドモンド演じるミシェルは自由なイメージがいい。私はハンフリー・ボガートしぐさについてよくわかりませんが、ミシェルは彼の仕草を真似し、煙草を吸い、サングラスをかけ、闊歩する。まだ何物にもしばられない自由な雰囲気に満ちていた。

それだからか、最後の死の場面が強烈だった。撃たれたあとも、すぐには倒れない。

ふらふらと歩き、最後には、エビぞりになってグワンと道路に崩れ落ちる。派手な音楽もない。英雄的な最期でもない。サヨナラといわんばかりに、自分でまぶたをとして、死んでしまう。

この死の場面が、強く印象に残った。これは気分を描いた映画なんだと思った。たいした物語もなく、劇的要素もない。そして唐突にやってくる死。そうかこれは、「気分を描いた映画」だったんだと。

パリの街を歩くこと。煙草を吸うこと。男女がベッドでくだらない話をすること。「寝よう」と誘うこと。好きなのかどうかもよく分からない男女が一緒にいること。そして、最後に男が死ぬこと。

それらが一本の物語としてきれいにつながっているというより、断片的な記憶のように残っている。60年以上経った今でもジーン・セバーグの姿が古びていないことには驚かされる。映画は時代を映すものだと思っていた。ところが『勝手にしやがれ』を観ていると、逆に、時代を超えて残るものもあることに気づかされる。

警察に追われるというストーリーは古くなるし、価値観も変わる。今ではそのまま受け入れにくい部分もある。それでも、セバーグが街を歩く姿や、二人がベッドで取り留めのない会話をしている時間、そして最後にミシェルがふらふらと死んでいく姿は、今観ても妙に生々しいし、どこか共感してしまう。

「勝手にしやがれ」は、物語を楽しむ映画ではなく、ある若者たちが生きていた時間と、その気分を感じる映画なのかもしれないと思った。そして、その「気分」が60年以上経った今でも残っていることに、驚かされた。「気分」こそが、この映画のキモになっているような気がした。

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