地獄からの使者か?不条理な「ノーカントリー」

映画「ノーカントリー」(2007年)

■監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
■出演:ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン、他

映画「ノーカントリー」は尋常じゃない緊張感が続くすごい映画でした。コーエン兄弟、あらためてすごいなと感じる作品でした。この圧倒的な緊張感は、まずBGMが流れた印象がないこと。あるのは、砂漠の風の音であったり、ザックザックと砂利を踏む音、なにより不気味さを感じさせるのがハビエル・バルデム演じるアントン・シガーが持つボン!という家畜屠殺用の空気銃の充填音です。通常は不安をさそうBGMが流れ、見る側はそこに誘導されていくのですが、この「ノーカントリー」ではそうしたものはなく、場面場面で生じる音によって、その場面に居合わせているかのような緊張感が生み出されています。どんどん映画に、引き込まれていっていると中で、そこに気づいた時、コーエン兄弟の演出力のすごさを感じ取りました。

そして、なんといっても人の命をなんとも思っていないような、不気味で恐ろしいサイコパスな存在アントン・シガーです。いきなりコイン投げの会話をはじめ、表か裏かと問いかけ、本人の意思とは関係なく偶然にまかせ人を殺してしまう。アントン・シガーは、麻薬取引で失われた現金を探しているのですが、頭の回転は速く、適格な行動で、恐ろしいくらい冷血に行動します。こんな悪役、みたことありません。彼の行動の足跡をみたら、不条理、唐突、無慈悲という言葉しか残りません。過去最高級の悪役だと思います。もう見ていて悪魔的存在だなと思いました。彼を演じたハビエル・バルデムの演技も感情の表出をみじんも感じさせず、素晴らしい縁起だったと思います。

ジョシュ・ブローリン演じるベトナム帰還兵モスが、砂漠の麻薬取引現場で200万ドルを偶然手にし、そのお金をもってとんずらし、シガーに追われるわけですが、このモスもなかなかハードガイで、いくつかの危機をなるほど強いなーって感じで切り抜け、シガーと対照的そんざいでもあるので、シガーの人間離れの冷血さを見ていると、いつしか見る側はこのモスに感情移入し始めます。どうやってモスは、シガーをやっけるんだろうと・・・。しかし、突然、モスはモーテルの一室で殺された死骸として横たわっているのを見せられるの、あっと声が出ました。このような見せ方にも、驚きました。そこには、ここまで引っ張るもモスとシガーの対決がない。不完全燃焼なんだけど、それがこの映画のミソなんだろう。人生における不条理は理屈抜きなんだと。

強面のトミー・リー・ジョーンズ演じる保安官が、優しいおじさんに見えてきてしまうのです。アントン・シガーという殺人鬼には手も足もでないという感じです。そんな悪魔のようなシガーもラストに交通事故に遭います。彼は骨がむき出しているよと、事故を目撃した少年に言われるくらい重傷を負うのですが、誰にも言うなよと脅し、その場を去っていきます。
しかし、注目すべきは、彼が何らかの方法で、さばかれるのでなく、ただの交差点での不注意な事故に遭うということ。それはモスの死の不完全燃焼と同様、人生の落とし穴は別の所にあるということか。不条理に殺人を犯してきたシガーでさえ、不条理の落とし穴にはまってしまう。最後の保安官の独白が心に浸みた。コーエン兄弟の「ノーカントリー」、ずしりと重みのあるすごい映画でした。

Follow me!